万城目学原作かもしれない映画『本能寺ホテル』(綾瀬はるか、堤真一出演の映画)の3つの謎
※この記事には映画『本能寺ホテル』のネタバレが余すところなく書かれています。
みなさんこんにちは。映画好きな文系男子、トム・ヤムクンです。
遅ればせながら先日、映画『本能寺ホテル』をu-nextで観ました。
ストーリーとしては、「結婚や就職に悩む、綾瀬はるか演じるヒロインが、京都で泊まった『本能寺ホテル』のエレベーターに乗ることで、本能寺の変前夜の信長のところにタイムスリップしてしまい、彼を救うために奮闘しながら自分の人生を見つめ直す」みたいな話です。
この作品は、『プリンセス・トヨトミ』のチームがふたたび集まって制作した、というのが売りのひとつになっていたましたが、もちろん僕もご多分にもれず、「スタッフ一覧に万城目学の名前がない」ことに衝撃を受けました。
そもそもこの『本能寺ホテル』の監督と脚本家が以前にタッグを組んだ映画『プリンセス・トヨトミ』や、テレビドラマ『鹿男あをによし』は、両方とも『鴨川ホルモー』でデビューした小説家・万城目学の原作を使った作品であり、この『本能寺ホテル』の「再結集したスタッフ」なるものは「チーム万城目」と呼んでも過言ではないわけです。
じつは万城目自身が映画公開以前に、キナ臭いツイートをしていたようでして、それを含めたわかりやすいサイトのリンクを載せておきます。
【本能寺ホテル】万城目学の脚本をパクった作品?ツイッターで話題に 作家本人も2年前に言及してる
https://matomedane.jp/page/3860
万城目氏の言い分を要約すると、
「映画オリジナルの作品の脚本を担当していたのだがそれがボツになり、にもかかわらず自分のアイディアが無断で使われていた」
というものです。
ボツになった、ということは「おまえの創作物は使わないし、ギャラも支払わないよ」ということですから、当然ながら作品のアイディアに関して制作サイドが無断で使うと、著作権の侵害になります。
万城目氏はその作品がなんなのか、ということは明かしていないのですが、この『本能寺ホテル』がそうなのではないか、と取り沙汰されていました。
そんなこんなで今回は、何かと波乱含みのこの映画の3つの謎について考察してみます。それは、
- 脚本の不備の謎
- 「盗用騒動」と、その箇所がどこか、という謎
- 「繭子=藤原道子説」の謎
の3つです。
脚本の不備の謎
残念ながらこの作品は、脚本のアラが非常に目立ちました。
以下に僕が気になった点を挙げてみます。(映画そのものを観ていない方はワケわからないと思いますので、読み飛ばして次に進んでください)
・金平糖とオルゴールの伏線 あからさますぎ
・繭子が「やりたいことがない」と繰り返しすぎ
・歴史的には、信長が死んでも信忠がいれば政権は続くはずだった、という可能性を無視しすぎ。信忠も死んだことをもっとアピールすべきでは?
・構成がいろいろ残念。信長の「自分は」決断は、繭子が行くまで明かさないほうがいい。
→信長はぎりぎりまで生き残りを模索して、繭子から真相を聞き出そうとするドラマを引っ張るべき。でなければもう早い段階で話の結論が見えてしまって、なんの緊張感もない。
というわけで、『鹿男あをによし』であれだけの腕を見せてくれた相沢友子が、これだけの脚本のまずさをさらすというのは、ダダごとではないと思うのです。これはどうしたことでしょうか?
ただ、冒頭にご紹介した万城目氏降板騒動がこの作品の話だとすれば合点がいきます。おそらく万城目氏降板後、非常にタイトなスケジュールで万城目氏のオリジナル要素を消さなくてはならなかったため、このようなずさんなドラマになってしまったのでしょう。
「盗用騒動」と、その箇所がどこか、という謎
万城目学降板騒動の脚本がこの作品であれば、その「万城目のアイディアが盗用された箇所」とはどこなのか?
僕があやしいと思っているのはこのあたりです。
・縁結びパワースポットのチラシ
・エレベーターでタイムトラベルするところ
・金平糖
・胃腸薬
・ぶりぶりぎっちょう
以下、正解に迫るためにいくつかの点から考察してみます。
1.盗用箇所は「小ネタ」というレベルのものであって、ストーリーの根幹にかかわる内容ではない
万城目氏の例のツイートには、
「私が脚本に書いた非常に重要なフレーズが」
「小ネタとして使われ」
とあります。
つまり「主人公が信長に京都の街を案内してもらう」「主人公が、料亭の主人である婚約者の父親に会う」のような「ストーリー」でないということです。
2.今回の作品にとって重要である、と制作サイドも考えていた箇所である
そして、万城目氏はボツになったこの脚本のアイディアを自身の小説に流用しようと考えていたようなのですが、
「これが公開されてしまうと、私が小説を書いても、『ああ、あの映画のあれね』とオリジナリティ・ゼロものと扱われてしまう」とコメントしていますので、それほど印象的な内容なのでしょう。
ですから、ほかの「信長ものエンターテイメント」にもあるような「現代人がタイムスリップして織田信長と出会う」ていどのものでないことは明らかです。
一発でそれとわかる箇所、であるように書かれていて、しかも、「変更は不可能」と制作サイドが言っているようなので、ストーリー上必須な箇所なのでしょうな。
3.「展開」ではなく「フレーズ」である
上記に加えて「フレーズ」と言っているからには、「登場人物の行動」とか、ある場面の「一連のやりとり」というよりも「言葉」といえるものなのでしょう。
正解は「ほかの『信長』をあつかったエンターテイメント作品にはないような印象的な『フレーズ』で、しかも小ネタとして『本能寺ホテル』に使われているもの」ということになります。
そういうわけで僕としては、
「ぶりぶりぎっちょう」
を推したいと思います。
※「ぶりぶりぎっちょう」についてはWikipediaにも説明が載っています
「繭子=藤原道子説」の謎
さて、最後の謎です。
これは、「『本能寺ホテル』の主人公である倉本繭子は、『鹿男あをによし』のヒロインである藤原道子と、もとは同一人物、あるいはそれをあからさまに想像させる人物として構想されたが、万城目氏降板でそのイメージが中途半端に脚本に残ったのではないか」ということです。
藤原道子は、万城目氏の書いた原作では男性でしたが、ドラマ化の段階で女性として再設定された人物です。そして念の為に付け加えておきますと、『鹿男あをによし』のドラマバージョンでは繭子と同じく、綾瀬はるかが演じていました。
僕はこの作品を半分ほど観た段階で、以下のようなツイートをしていました。
『本能寺ホテル』をなかばまで観ているのだが、主役が綾瀬はるかで、その主人公が就活中だが教員免許を持っているという話が出てきた。ひょっとしてラストで「『私、教師になる』とか言って奈良に行く」という「『鹿男あをによし』の前日譚でした」的なオチになるんじゃないかとヒヤヒヤしている。
— トム・ヤムクン@トムヤ村t0myumkung.com (@tomyumkung01) May 27, 2018
で、結論としては本当にそうだったんですね。
(「奈良」という地名こそ出さなかったものの、最後に繭子が日本史の教師を志望していた)
『鹿男あをによし』の藤原道子はというと、こちらも日本史の教師です。どうも本当にこの作品は『鹿男あをによし』の藤原道子の前日譚として構想されたのではないかという気がしてきました。
最初の「ホテルの予約を一ヶ月間違えていた」「方向音痴」というアホさかげんも、「不運」な人物として造形されていた藤原道子と一致します。
しかも『本能寺ホテル』ではその後、繭子が「うっかりした人物である」ということはあまり触れられていません。
それは、当初の「繭子=藤原道子」としての人物造形をいちおうは取り除こうとしたものの、ストーリーの本筋との兼ね合い、およびスケジュールのきつさによって、中途半端にその面影を残すことになったからではないでしょうか。
というわけで、『本能寺ホテル』における3つの謎に迫ってみました。最後まで万城目氏が脚本を担当していたらさぞかし面白いものになっただろうと思わせるこの映画は、まるで「彼が生きて天下統一を実現していたらどんな日本になっただろう」と想像させる織田信長のような作品です。
トム・ヤムクンでした。