高校演劇の脚本を自分たちで書きたいときにやってはいけないこと(4)~やったほうがいいこと編-下~

みなさんこんにちは、つねに省エネで小説を書くことを目指しているトム・ヤムクンです。

高校演劇の脚本について、何回かに分けてその書き方をお話ししています。
これまでのあらすじはこちら。

高校演劇の脚本を自分たちで書きたいときにやってはいけないことシリーズ
(1)準備編

(2)実践編

(3)やったほうがいいこと編-上

さて、前回は具体的な書き方のくだりで、「全体のあらすじを4つのパートに分けて、それぞれを400字くらいで書いてみよう」というお話をしました。

そのように概要を把握することで、本文にとりかかる前に矛盾の発見や、より綿密な計画が可能になるのでしたよね。

今回は、それぞれのパートをどのような内容で書いていけばいいのか、ということをお伝えします。

本当にざっくりとした概要だけですので、詳しくは前回ご紹介したスナイダーとぴこ蔵さんのサイトを参照されることをおすすめします。 

 

〈第1幕・主人公の最初の状況(400字)〉

さて、最初のくだりです。ここでは、主人公や世界観、主要な登場人物の紹介をするのがメインの内容になります(だからといって、登場人物が自己紹介するようなシーンとか書いてはいけません。非常に特殊な状況を書くのでないかぎり、不自然すぎます

まだ事件がなにも起こっていない状況での【主人公の日常生活】を描きます。そして、【主人公はなにかに悩んでいるか、なにかの欲求をかかえています】。子どもとの関係がうまくいっていないとか、出世したいけど上司に気に入られていないとかです。

ここではあくまでも「日常的な悩み」にしてください。『ハリー・ポッターと賢者の石』でいえばこのくだりは「賢者の石が盗まれた」ということではなく、「ハリーが叔母一家の家に居候しているが、いじめられている」ということです。

このパートの最後で、主人公は【新しい世界】への扉を開き、いよいよ事件の渦中に入っていきます。もちろん、『ハリー・ポッター』でいえばハリーが9と3/4番線の壁をくぐり、ホグワーツ特急に乗るところ、『スター・ウォーズ エピソード4』でいえば、ルークたちがミレニアム・ファルコン号でタトゥイーンを脱出するところですね。

 

 

〈第2幕前半・主人公が目的を達成しようとする過程〉

――ただしここでは成功か失敗かという結果は出ない(400字)

ここは、おもに3つのできごとが起こると思ってください。

 
●別の話題のはじまり

ヒロインとの恋愛に関するストーリーが進行したり、これまでとは違った方向性のお話が描かれるのがこの部分です。これは、ストーリーをより重層的なものにする意味をもち、本筋のストーリーと並行して進展していき、本筋がクライマックスであるとき、このサブプロットも終わることが多いです。

イメージとしては、本筋では主人公が敵と戦いながら、このサブプロットではヒロインとの恋愛が進展していき、途中で喧嘩別れするけれども、本筋がクライマックスに差し掛かり、敵との戦いのなかで主人公がピンチに陥ったとき、ヒロインと和解することによってその助力を得て勝利する、みたいな感じでしょうか。

 

観客にとって楽しいこと

その作品で、観客が「楽しい」と感じるためのお楽しみシーンを用意します。ハリー・ポッターで言うと、ホグワーツでさまざまな授業がおこなわれてハリーが魔法の世界にどっぷり浸かっていき、また、クィディッチの選手として見出されて活躍する、というあたりがこれに該当するでしょう。恋愛ものだと「個性的な異性に振り回されながらデートっぽいことをする」とか、推理モノだと「主人公が見事な推理をはたらかせて事件の謎の一端を解く」などの描写が描かれます

 

最悪のこと

主人公の絶体絶命の危機や、主人公の属する共同体が大きな災厄に陥るさまが描かれます。

第2幕後半・その結果あきらかになった、最悪の状況によって主人公が「本当にあるべき自分」は何か、ということに気づくまでの過程(400字)

ここで主人公はいよいよ進退窮まり、さきほどの「最悪のこと」によっておこされた危機からどうにか脱しようと奮闘します。ここでは以下のことが起こります

師匠が死ぬ(あるいは支えとなってくれた人がいなくなる)

わかりやすいのは『スターウォーズ エピソード4 新たなる希望』で、オビ=ワン・ケノービが死ぬ(ネタバレ失礼!)ところでしょう。

要するに師匠であれなんであれ、これまで主人公を支え、導いてくれた存在が、死ぬか、あるいは物語の第一線から退場し(左遷されて遠くの土地に行ってしまう、敵に捕えられて戦力から外れるなど)、主人公はもはやその導きなしで課題解決に臨まなければならなくなるのです。

エンタテイメントのフィクションというのは一般的に主人公のいわゆる「成長」を描き、その新たに獲得した力によって課題を解決する様を表現するものなので、援助者の助力なしに課題を解決しなくてはいけません。それゆえ、もう彼らの助けが得られない、という状況を作り出すため、このようなシーンが描かれるのでしょう。

『ハリー・ポッターと賢者の石』で言えば、ホグワーツで賢者の石を守る地下迷宮で、ハーマイオニーとロンが戦いから脱落してしまうところでしょう。ここからハリーは一人で奥に進み、敵と対決することになるのです。

主人公が悩みのなかで、意外な真実と本当にあるべき自分を知る

ここでは、主人公はこれまでの自分の人生や物語中での大前提を覆されるような意外な真実を知ります。「〇〇先生ではなく〇〇先生がヴォルデモート卿の手先だった」というところですね。

しかし、主人公は同時にこれまでの苦闘によって獲得したあらたな価値観によって、それまでには自分になかった力で敵との最終対決に臨むのです。

「あらたな力」とは、ルーク・スカイウォーカーにとってのフォースが有名なところでしょう。彼はこれまで習得に難儀していたこのフォースをいつのまにか獲得しており、これによって、通常の宇宙戦闘機のパイロットでは絶対に攻撃不可能な狭く狙いのさだまらないデス・スターの原子炉を、正確に魚雷で狙い、反乱軍を勝利に導くことができたのです。

『ハリー・ポッターと賢者の石』では、なんでも望むものを見ることができる不思議な鏡のなかに、失った家族ばかりを見出していたハリーが、クライマックスでは賢者の石を見出し、それによって勝利することができた、というのがこれに相当するでしょう。

敵との最終対決に踏み切る

ちなみに恋愛をメインにしたストーリーなどは、必ずしも「敵」が登場するわけではありませんよね。あるいは、『生きる』(黒澤明)のように、自分の人生と向き合う、といったテーマをもつ作品も同様です。このような場合、「敵」とは「攻略すべき恋愛の相手」や「主人公の抱える恋愛に対する恐怖」であったり、「病気により迫ってくる死」のような抽象的なものでもありうる、と読み替えてみてください。

 

〈第3幕・主人公が上記の成長を果たしたのちに最後の試練にのぞみ、最大の障害を突破するまでの過程(または敗北するものの、そもそも目的としていたことを達成する過程)〉(400字)

ここはいわゆる「クライマックス」です。成長を果たした主人公が、あらたに獲得した力をもって敵との最終対決にのぞみ、勝利します。(敗北するパターンを書くことももちろん可能です)

明確な「敵」が登場しない作品は、もちろん人格を持った敵とかゴジラみたいなモンスターと戦う必要はありません。それでもやっぱり、主人公は「なにか」との最終対決をするのです。ベタな例でいくと「恋愛に対する恐怖を克服して、好きな男子に告白する」とか、そういう具合です。

以上です。この4段階を踏まえて書けば、最低限、それらしいものは書けます。ただ、次の大会までには最低限、最初に掲げた2つのサイトをしっかり読んで、できたら関連書籍も読んでみてください。

これらをマスターすれば、他の創作脚本を使用する学校に大きく差をつけられること請け合いです。

本文を書いていく

以上のようにして書いたあらすじを何度も手直しして矛盾点を整理した上で、いよいよ脚本の本文を書き始めます。

 

詳しくはこの記事では扱わないのですが、ここでも、「どこかで見たようなやりとり」の使い回しにならないように注意してください。

 

書いていて改めて思ったのですが、実際、これらのことを示してもやはり、すぐに物語が書けるようになるわけではありませんね。

しかしともかく、「脚本を1週間で仕上げなくちゃいけないんだけど、何をしていいのかわからない」という方の助けにはなるのではないかと考え、記事を書かせていただきました。

 

そして、「型にはまった物語なんか書きたくない! 私は自由な表現をしたい!」をヘドを吐いた方(!)もおおぜいいることでしょう。

たしかにそれは重要な問題ですし、この問題を避けていては、真に「物語の書き方」をアドバイスしたことにはならないでしょう。

「物語の書き方をマニュアル化して、誰にでもカンタンに書けるようにしよう」というこの種の話は僕のライフワークでもあるのですが、このような僕の考えはきまってある種の反発に合います。

すなわち、「物語は『自由に』『楽しく』書くべきものであり、マニュアルに従って作業のように書いていいものではない」という主張です。

このような主張に賛成の方も多いことでしょう。しかし、実はこれは劇薬を含んだ危険な考え方だと言わなくてはいけません。

そこで、「脚本の書き方」という観点からのお話はこのくらいでいったん終了して、後日、「どうして『物語を書く』という行為をマニュアル化するのか」というお話をしたいと思います。

トム・ヤムクンでした。

トム・ヤムクン

ライフハックと手帳を駆使して作家を目指している人。得意分野は手帳と日本史。Twitterアカウント:@tomyumkung01 ※このブログはAmazon.co.jpアソシエイトに参加しています。