歴史を「教える」側に必要なのは、暗記力よりも読解力と「語る力」である
歴史をどう教えたらいいか、という問題
中高生のお子さんをもつ親御さん、また、塾講師などのアルバイトをしている方で、「歴史をどう教えたらいいか困っている」「子ども・生徒の歴史の成績が上がらなくて困っている」という方はけっこういるものです。
また、「そもそも、自分だって歴史の年号とかうろ覚えだし……」と、アドバイスすること自体を躊躇してしまう、という方は多いはず。それもそうでしょう。僕だって、「トム・ヤムクンさん、虚数iについて解説してよ」って言われたらシッポを巻いてシャッポを脱いで逃げ出します。
しかし、じつは世界史であれ日本史であれ、塾の講師などが適切に指導する際に「暗記力」などは必要ないのです。ましてや、「何が何年に起こった」などということはうろ覚えで結構です。そんなものは資料集を開けば、いくらでも載っているわけですからね。
以下のことを意識すれば、あなたのお子さん・生徒の歴史の成績はあがります。
ポイントは、
・適切な手順での学習を指導した上で、基本、自習で学習を進めてもらうこと
・教える側は「暗記」より「語る力」が必要とされることを自覚すること
親・講師にできることはほとんどない
じつは、講師や教師、そして親に、暗記に関してできることってほとんどないのです。だって大人がかわりに年号を覚えてあげたところで、子どもの成績は上がりませんからね。
では何ができるかというと、「暗記する環境をととのえてあげる」ことなんですね。
だから本格的な講義などができる人でなくとも、自分が高校である程度、世界史や日本史、政経など、いまから自分が生徒に教えようとしている科目ができるようになっていたのであれば、「今はもう、当時暗記したこと半分くらい忘れてるな」という感じでもぜんぜんオーケーなのです。
必要な手順
では歴史の学習に際して、具体的にどのようなことを生徒にしてもらうべきなのでしょうか?
1.日本史の因果関係と、起こったことの順序を頭に入れる
2.一問一答教材で暗記する
この段階が完璧にできるようであれば、高校の定期テストはほぼ対応できるでしょう。これまで歴史が苦手だった生徒であれば、学年順位が大幅に上がることも不思議ではありません。
3.わからないことを塾の講師や学校の先生に質問
こここそが講師の「語る力」が試されるところなんですね。
4.センター試験レベルの問題集を1冊、やりきる(できれば同じものをもう一度おこない、8割は正解できるようにしておく)
センター試験レベルなら、これだけでそこそこの点数は取れるでしょう。
5.志望大学(高校)の過去問を何度も解いて、安定して8割の得点が取れるようにする
これでその高校や大学に関しては合格です。おめでとうございます(実際には、番狂わせがありうるので保証はできませんが……)
生徒の「わからない」の正体
で、今回、詳しくお話したいのは上記のうちの 3. の段階です。
つまり、「生徒の歴史系の質問にいかに対応するか」ということですね。
まず一問一答教材の段階で「わからない」という状況になるのは、実はおかしなこととも言えるでのす。
一問一答の教材というと、たとえば以下のような問題が何百と羅列されていますよね。
Q.1590年に豊臣秀吉によって滅ぼされた、小田原を本拠とした大名は何氏か。
A.北条氏(後北条氏)
これがわからない、というのは、たとえば英語で「りんご は apple である」がわからない、と言っているのと同じようなものなのです。
つまり、「もう北条氏は北条氏なんだから、こういう問題が出たら北条氏と答える、ということを覚えればそれでいい。わからないもなにもないのではないか?」という疑問を、親・講師であるあなたは持つことになるでしょう。
それにもかかわらず、生徒が現実にテキストを持ってあなたのところに「わからない」と訴えてきているということは、なにか言葉では表現しづらい、複雑な事情をかかえている、ということなんです。
考えられるのは以下のパターンです。
パターン1:これひとつだけなら暗記できても、ほかにも伊達氏とか武田氏とか似たようなものが出てくるから、その区別がつけづらくて覚えるのが大変!
特に社会系科目の暗記の際に大事なのが、「暗記すべき事項Aと暗記すべき事項B」の区別をしっかりとつけることですよね。
「酒屋」と「馬借」の区別をしっかりつけていないと、
「酒の醸造・販売や金融をいとなみ、室町時代に繁栄した業種は何か」という問題に「酒屋」、「馬借」のどちらで答えようか迷ってしまう、ということになってしまいます。
対策:ここでは、それぞれの事項に関するエピソードを語る、または表に列挙して、どうしてそうなるのか、というメカニズムを覚えさせましょう。
例としては、酒屋、馬借、土倉、問丸、などの似たような中世の業種を横並びで表に書き、その下にそれぞれの特徴を書いていきます。ここに書く内容は、用語集から要点を抜書きする感じでよいでしょう。先生の側でも用語集を持っておくか、似たような事典が搭載された電子辞書を買うのがよいかもしれません。(ただし、プライベートのお金で教材を買いすぎて、「講師ビンボー」になるのは避けましょう。働いている意味がありませんからね)
パターン2:これひとつだけなら暗記できても、戦国時代だけで何十っていう単語を覚えなきゃいけないし、それが終わったら大物の江戸と近代が待ってるし、先月の模試の成績も悪かったしもうどうしていいいかわかんない!
もう、覚えることが多すぎて、メニューを見ただけでお腹いっぱいになっているパターンです。このようなお子さんへの対策は以下のようなものが望ましいでしょう。
対策:覚えなくてもいいものをピックアップし、数を減らしてあげる
「ひとまず戦国時代だけ覚えよう! ほかは考えなくていい」
と、覚える範囲を限定しましょう。
また、覚えることがたくさんあるように見えても、じつは「覚えるまでもなくすでに知っている情報」などが必ずあるものです。
たとえば、「楽市楽座を大々的に実施し、天下統一目前で明智光秀に討たれた大名」なんて、戦国時代に詳しくない人だって知ってますよね。
そのほかにも「関ヶ原の戦いが起こったのは1600年」というのはキリがいいから学校の授業で聞いただけで覚えてしまった――「島津氏が国人出身ではなく守護出身の大名」であることは大河ドラマで見たから知ってる――など、その範囲全体を見れば、意外とすでに覚えている内容があるものです。
ですから、このようなものを生徒と話し合い、ピックアップして減らしてあげましょう。30個だった暗記項目が20個になるだけでも、生徒の苦手意識はけっこう減らすことができるのです。
暗記する作業じたいが面倒! 先生に質問することで体裁を取り繕って、「自分はちゃんと勉強してる大丈夫」っていう感覚を得ながら、面倒なことを先延ばしにしたい!
いちばんやっかいな、しかし、いちばんありえるパターンです。
暗記の成否を分けるのは、テクニック以上に「暗記という作業をするか、しないか」であることが多いのです。しかし、それ自体をしたくない、というこのパターンの生徒は、このままでは次の定期テストで致命的な点数をとってしまう可能性がありますし、このようなことが続いては受験もあやうくなります。
対策:いったん、生徒がいま考えていること、モヤモヤしていることをぜんぶ吐き出させた上で、小テストを毎日やる、などの目標を立てて、とにかく実際の暗記作業に取り組んでもらいましょう。
まずは悩みを聞いてあげることが先決。話すだけでスッキリして「仕方ないから暗記しよう」という意識になれることも多いです。
また、小テストなどの具体的な・近日中の・小さな目標を設定すれば、とにかくそれに向かって暗記をせざるをえなくなりますので、効果は高いです。
以上、歴史系科目の教え方に悩んでいる方に効果的な方法をお届けしました。
ここに書かれていることは、勉強をしている生徒さん自身や、大人になってから歴史を学び直そうとしている方などにも応用できますので、ぜひトライしてみてください。
トム・ヤムクンでした。