おふろcafe utataneをめぐる冒険
謎の女からの電話、あるいは家事という行為の重要性について
「あなたはそこに行かなくてはならないのよ」受話器の向こうで謎の女は言った。休日の、火曜日の朝のことだった。僕はロッシーニの『泥棒かささぎ』を聴きながらスパゲティを茹ででいた。
「それは決まっていることなの。あなたはそこに行くよう定められているのよ。あなたは『おふろcafe utatane』に行くの。ねえ、ところで私、いまなにも着ていないのよ」
「忙しいんだ」僕は言った。「これから洗濯機を2回、まわさなくちゃならないし、2時になったら奥さんの洗濯物を取りにクリーニング店に行かなきゃいけない。それに――」
「忙しいんだ」僕は言った。「これから洗濯機を2回、まわさなくちゃならないし、2時になったら奥さんの洗濯物を取りにクリーニング店に行かなきゃいけない。それに――」
電話は切れた。
「やれやれ」僕はひとまず図書館の女の子と寝た。しかし、考えれば考えるほど、それは悪くないアイディアであるように思えてきた。『おふろcafe utatane』に行く――これ以上に、休日である火曜日を過ごすのにうってつけの場所があるだろうか。
なにしろ『おふろcafe utatane』は大宮駅からもアクセス良好で、何種類ものお風呂をリーズナブルな価格で楽しむことができ、ヘルシーな食事や泥パック、読み放題のコミック、雑誌をはじめとした本が非常に多く揃っており、疲れきった埼玉県民の心と身体を非常に効果的に癒やしてくれるのだった。
僕は双子の女の子たちと寝てから相棒に電話をかけ、しばらく留守にするとことわりを入れた。僕はわりとこういうことにはきっちりしている方なのだ。そして東武東上線の切符を買った。「かっこう」どこかで笠原メイが言った。
風呂屋再襲撃
そしてかっきり1時間後には、僕はひとっ風呂浴びてから『おふろcafe utatane』のテーブルでコーヒーを飲んでいた。それなりのコーヒーマシンから抽出された、それなりの味のコーヒーだ。悪くない。まったく悪くない。コーヒーはこうでなくてはいけないのだ。雑味のないコーヒーが上質だなどと、いったい誰が決めたのだろう。ねえ、そうじゃないか、五反田君?
続いてテーブル席に行き、マスタードチキンライスボウルという料理を注文した。周囲の席は学生と思われる若い男女でごった返していて、そのあとでスタッフが注文をとったり料理を運んだりして、忙しく動き回っていた。こういう雪かき仕事は、いつもどこかで誰かがしなくてはいけないのだ。ねえ、そうだろう、五反田君?
ふくよかなポテトサラダにジューシーな肉、しゃきっとしたレタス。 マスタードチキンライスボウルはこうでなくてはいけない。
マッサージチェアをめぐる冒険
もちろん風呂も最高だ。ここにはおかしな電話をかけてくる謎の女もいなければ、男の性欲についてしつこく質問してくる笠原メイもいない。
マッサージチェアは大人気だ。我慢強く順番待ちをする必要がある。やれやれ。
マッサージチェアをみつけて順番待ちをしていたが、いつまで経っても空かない。いったいどこから湧いてくるのだろう。みんなおふろcafe以外、行くところがないのだろうか?
ともあれそれらを差し引いたとしても、『おふろcafe utatane』が、この高度にソフィスティケートされた資本主義社会において、われわれにひとときの癒しを与えてくれることは疑いようがなかった。
ラジオでは、ボブ・ディランが『激しい雨』を歌い続けていた。
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