大学入試の小論文攻略(2) ~自分語り編~
前回は、小論文の書き方に悩んでいる方に向けて、小論文とは一体何か、ということから解説しました。
今回からは、小論文のパターンごとに最適の攻略法について考えていきたいと思います。
まず、小論文には以下のような形式がある、ということを知っておいてください。
1.自分語り系
2.社会のできごと系
3.抽象的なテーマ系
今回はこのうち、1.自分語り系 についてお話しします。
ハリウッド映画を参考にしよう
小論文でもっともポピュラーなもののひとつが、「あなたの将来の展望について書け」とか、「人とのふれあいがあなたにもたらした影響について書け」というやつです(ここではこれを「自分語り系」と称します)。
このたぐいの文を書くのはもっとも簡単で、また、もっとも難しいと言えるかもしれません。なぜなら、宇宙開発についてぜんぜん知らない、という人が「月探査における今後の問題点は何か」なんて課題を出されたら、なんの情報もない中を想像で書くしかなくなってしまいますが、ひとまず自分のことに関しては、あなたが世界でもっとも多くの情報を持っているからです。
しかしながら、「人間が自分のことについて完全に理解しているか」というとそれはなかなか難しいもの。客観的な視点を持ちづらいがゆえに、自分のことについてはうまくPRできなかったりするのです。
そんな「自分語り系」の小論文には、「ハリウッド映画的に語る」という方法がおすすめです。
ハリウッド映画の語り方
「ハリウッド映画をまったく観たことがない」という人は少数派でしょう。わざわざ映画館まで足を運ばずとも、テレビで放送しているのを片手間に観た経験なら多くの人がもっているのではないでしょうか。
さて、このハリウッド映画では、多くのものが似たようなストーリーの構造を用いているのは有名な話です。
すなわち、
・世界観や主要な登場人物の説明(魔法使いたちがいわくありげな赤ん坊を人間に預ける)・主人公の説明(メガネの少年が叔母の家で虐待をうけながら暮らしている)・主人公にもたらされる、新しい世界へのいざない(魔法学校の入学許可証が届く)・主人公の抱えている具体的な悩み(おじさんが魔法学校に行かせてくれない)
その後も、
・主人公に試練が降りかかる(魔法学校で、賢者の石に関する謎を追う)・それをこれまでとは全く違う方法で克服する(亡き両親への思いに浸るのではなく、現実に立ち向かう心の強さを持つ。結果、敵を倒す)・それによって世界が更新される(魔法学校に平和が戻り、自分の寮が学園内で表彰され、新しいホウキを手に入れる)
というように続くのです。最初から最後まで、ハリウッド映画(あるいはその他の国・地域の映画も)というものは基本的にはこのパターンを踏襲しています。
これを小論文にあてはめよう
さて、このパターンはただ「ハリウッドで使われているテクニック」というだけではありません。そもそも何千年も昔に人類が語っていた神話からして、このような構造になっており、それが映画業界に取り入れられて発展したのがこのテクニックである、というわけなのです。
では、さっそくこのパターンに従って小論文を書いてみましょう。
例題:人とのふれあいがあなたにもたらした影響について書け回答例:私は高校生活、特に部活動において、「雑談」の大切さを学んだ。(この、冒頭に「もっとも伝達すべきテーマ」を持ってくるというやり方は、さっそく、ハリウッドの脚本術を逸脱しています。このように小論文と脚本術は、やはり細かいところに違いがあります。小論文は端的に、わかりやすく、内容を伝えるためにこのくだりが書かれるのですが、『ハリー・ポッター』の冒頭で「この物語は悪の魔法使いの魔の手からたった一人、生き残った男の子が、魔法学校に入学して仲間と出会い、賢者の石の謎を解いて学園に平和を取り戻す物語である」なんてナレーションがあったら興ざめもいいとこですよね)私はもともと寡黙なほうで、練習中に自分から雑談を始めたりはしなかった。試合でも負けが少ない方だったし、そのことになんの違和感も抱かずひたすら練習を真面目にこなそうとしていた(主人公の説明)。二年生の夏、私の部はなんと十数年ぶりに県大会に出場することになったが(新しい世界へのいざない)、練習量を増やしたことや試合からのプレッシャーで、部の人間関係がなんだかギクシャクしはじめた(主人公の具体的な悩み)。
そして大会が近づくと、なんだか練習中にも互いに話しかけづらい雰囲気になった。そのせいもあってみんなのパフォーマンスが落ちてしまった(試練が降りかかる)。私はそこで、一年生のときに先輩がしてくれたように、手近な後輩を捕まえて、彼女が好きだという芸能人の話をもちかけてみた(これまでとはまったく違う方法で解決する)。その夏の県大会では満足な結果を残せなかったが、それから部全体の雰囲気がよくなり、春の大会ではなんと県大会のベスト8まで勝ち残ることができた(世界が更新される)。いっけん無駄に思える雑談も、人との人とのふれあいを作る非常に重要なものなのである。私は大学生活においても、時と場合によっては積極的に人に話しかけ、人の輪をつないでいきたい(※この部分も「映画」にはあまりない、小論文独自のパートです。話の内容を総括し、書き手の人間性をアピールする狙いがあります)。
と、このように、ハリウッド式脚本術が見事、「自分語り系小論文」には応用できてしまうわけです。ぜひこのパターンを頭にしっかり刻んで、自分語り系の小論文に挑んでください。
さてさて、次回はまた違ったタイプの小論文に関して扱っていきます。
トム・ヤムクンでした。