今回のスター・ウォーズが今までと「なんだか違う」ワケ

今回のスター・ウォーズシリーズはなんだか違う

今回のスターウォーズシリーズ は、旧三部作(エピソード4~6)そしてプリクエル三部作(エピソード1~3)とは全く方向性が違う、というのは、これまでスター・ウォーズシリーズを見続けてきた方が誰しも抱く感想でしょう。

その伏線はエピソード7から引かれていたものの、エピソード8ではっきりと明らかになりました。

すなわち、これまでの6作品は英雄神話をモチーフとしていたのに対し、エピソード8では「名もなき民衆」をフィーチャーする、というテーマが明確に表明されたからです。

スターウォーズの旧三部作(ルークが主人公のシリーズね)が古典的な英雄神話をモチーフにして作り上げられていることは有名な話ですが、 プリクエル三部作(アナキンが主人公のシリーズね)もその系譜に連なっていることはもちろんです。旧三部作はルークが帝国軍との戦いを通してジェダイの騎士になること、プリクエルに関してはアナキンが分離主義勢力との戦いを通してダースベイダーになることがその主旨です。

また、プリクエルにおいては銀河共和国の危機がパルパティーンによって演出され、人々の不安が彼を「民主的に」皇帝に選んでしまう、という、古代ローマや第一次世界大戦後のドイツを彷彿とさせる展開をごていねいになぞっていました。これは、エピソード6の反乱軍による帝国打倒のくだりを「圧政を敷く権力者に対する、英雄に率いられた民衆の蜂起」として意味づける一助になっていました。

 

 

新三部作はそもそもが英雄神話の約束を踏襲していない

しかし、新三部作はそうではないのです。

主人公であるレイは「選ばれし者」ではありません。それはエピソード8ではっきりと明らかになります。彼女はアナキンやルークと同じように砂漠の惑星にいながら、しかしそれはタトゥイーンではなくジャクーです。

彼女の両親は名もなき者で、彼女の出生は 今のところ何らエピソードなどに彩られてはいない。つまりレイは「伝説の勇者」ではないのです。ルークやアナキンとはそこが決定的に違います。

ルークはオビ=ワンによって 最後の希望を託されたものであったし、アナキンは選ばれし者フォースにバランスをもたらす者でした。

かつて宮崎アニメはこれと同じ、モチーフの転換をやってのけたことがあります。『風の谷のナウシカ』と『もののけ姫』は同じ テーマやストーリーを もとにしていることは両方見た人間なら知っているでしょう。

しかし違う点もあります。ナウシカは 「その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」と予言された英雄であったのに対し、アシタカは血筋こそ高貴であるものの、予言された英雄などではありませんでした。

 

 

 

「民衆の時代」の神話

いま、スター・ウォーズではそれと同じことが起こっています。

名もなき庶民の娘でしかないレイはもちろんのこと、その前に立ちはだかるカイロ・レンも、スカイウォーカーの血筋を受け継ぐ最後の1人であるものの、アナキンのように高い能力を持っているわけではなく、自分の限界と理想とのギャップに悩む存在です。いわば、没落した王族の生き残り、と言って差し支えないポジションなのです。

他にも、英雄となることよりフィンへの愛を選んだローズなど、エピソード8では随所に「英雄の時代から民衆の時代へ」というテーマが打ち出されています。

そしてハン・ソロ、ルーク、レイア(キャリー・フィッシャーの死により、彼女が次回作で物語から退場することは疑いようがない)というヒーローたち、ダースベイダーというアンチヒーローがいなくなり、カイロ・レンやレイという「普通の人たち」のみが残された時代は、資本主義と社会主義の対立がなくなって多様な価値観が渦巻き絶対悪の消滅した現代社会を映しているかのようでもあります。

J・J・エイブラムスがこの「民衆の神話」にどのような終わりを与えるのか、というのは、「われわれ観客が、もはや英雄に頼るわけにいかず、依存すべき思想(資本主義や銀河共和国といったもの)を失った世界をどのように生きるか」という観点から言っても非常に興味深い問題なのではないでしょうか。

このスター・ウォーズシリーズの変化は、ルーカス・フィルムのディズニーへの売却と無関係ではないでしょう。これによってスター・ウォーズシリーズは「英雄」ジョージ・ルーカスという個人から、ディズニーという「会社」のものになったといえます(くわしい権利関係とかそういうのはよくわかりませんが)。そのことが映画のストーリーに反映されてもいるでしょう。

 

 

 

レイはスカイウォーカー一族で「あってはならなかった」

となれば、エピソード9で語られるのは、もはや「レイはやっぱりあの人の子孫だった!」とか、「カイロ・レンとレイの最終対決!」とか「ジェダイ騎士団の復興」などといったものではないでしょう。

僕はエピソード9を観るまで、「ルークがレイに”I am your father.”と告白する」場面を今か今かと待っていましたが、このような新しい時代の「神話」の主人公として、むしろレイはスカイウォーカーの血筋であってはならなかったといえるのです。

 

トム・ヤムクン

ライフハックと手帳を駆使して作家を目指している人。得意分野は手帳と日本史。Twitterアカウント:@tomyumkung01 ※このブログはAmazon.co.jpアソシエイトに参加しています。

1件のコメント