「いい加減な気持ちでの応募は迷惑をかけるだけ」事件について
「内定辞退した人への企業側のイヤミ事件」に対して思うこと
こんなニュースがありましたね。
転職での選考辞退 「いい加減な応募は迷惑」との会社対応が物議
転職活動をしていた人が、ある会社の内定を辞退したところ、企業側からのメールでそれを了承する旨の文面とともに、
「が、いい加減な気持ちでの応募は、迷惑をかけるだけですよ」
という一文が添えられていた、というものです。
内定したら入社は義務?
このニュース、みなさん、どう思いますか? 人事関連の仕事をしていた、という人は「全く同感」ということもあるかもしれませんが、僕は単純に「ふざけるな」とちゃぶ台を4回転くらいひっくり返しました。
僕は日本の「就活業界」において「分散投資を許さない」システムが幅を利かせている、という問題がこの背後にあるものと考えています。
今回の件の企業側の対応からは、
「ウチに応募するからには必ず第一志望なんだろうな」という脅迫めいた意志が読み取れます。現実的に考えて、現代人が就職活動や転職活動の際に第一志望以外にも応募することなんて予想のつく話ですし、となれば応募を受けた企業としてはその可能性を当然、考慮に入れるべきです。
(というか、すべての企業にとって、応募者は潜在的な顧客でもあるわけなので、イヤミを言うこと自体が自分たちの首を締めています。)
また、新卒の就活でも、我々はあのお決まりの文句をオウムのように繰り返さなくてはいけません。「御社が第一志望です」というアレです。企業の側も「実際に入社してくれる学生に内定を出したい」ので、内定を取りたい学生は、受験した全社でこの定型文を繰り返すことになります。
正直でいたければ、就活における分散投資は事実上、許されていないのです。
分散投資のできない人生ってどうよ?
分散投資、というのは、あるテクニックを指す用語として、金融や投資のみならず、多くの分野で使われています。
企業のレベルでは、多くの商品を販売することでリスクを減らし、国家もモノカルチャーを避け全方位外交をおこなうことによって、「どれかがダメになった場合」も容易に生き残れることをめざしています。
しかし、個人の就職、という観点からみたら、これは非常に実現が難しい。なぜなら正社員として働きたい場合、1社でしか働けないからです。
「なにを当たり前のことを」とおっしゃるかもしれませんが、考えてみてください。就職した会社でミスマッチが起こったり、あるいはブラック企業だったことが発覚すれば、相当の手間と時間とお金をかけて、ふたたび転職活動をしなくてはいけません。
日替わりランチのような働き方をしよう
ここで僕が提案したい理想の形は、1人が1週間のあいだ毎日、日替わりで別の会社に出勤することです。
つまり月曜はA社、火曜はB社、水曜はC社、木曜、金曜はD社、E社というように、曜日ごとに別の企業に出勤するのです。
そのうちA社から突然、解雇され、B社でセクハラやあるいはパワハラを受け、またC社で成績が非常に悪くても、態勢を立て直すあいだに残りの2つからの収入でなんとかしのげます。
現代の実際のシステムでは、退職するといきなり収入がゼロになってしまいますし、それを防ぐために転職先を確保してから前の会社をやめようとすると、転職活動のための時間が満足に確保できません。
もちろん実現への道のりは遠いでしょう。「1人の労働者が1社に出勤する日数を、週あたり1、2日に制限する」くらいの思い切った法整備が必要ですし、それをしたときに労働者の側で、5社も就業先を確保できるか、という問題もあります。
しかし、現代の日本では就職の面で分散投資をしたければ「フリーター」として働くしかないし、福利厚生も満足には得られないでしょう。収入もおぼつきません。飲食店のアルバイトでさえ、多くの仕事を回してもらえるのは「たくさんシフトに入れる人」です。
就職≠結婚
さて、この僕の提案は荒唐無稽ではありますが、決して「甘え」でもなんでもありません。考えてもみてください――職場とはそもそもお金を稼ぐために行くところであり、結婚相手ではないのです。短い人生のうちの何割かの貴重な時間を失う覚悟で、全身全霊をかけて尽くすべき相手ではありません。
さらにこのプランがもし実現されたら、労働者側の転職のハードルが下がることから雇用に流動性が生まれ、企業は労働者確保のために最低賃金も大幅に上げざるをえなくなるでしょう。
20年後くらいにはコレが当たり前になっているといいなあ……